〜「農民とともに」No.132〜



八千穂村健康管理

子どもの問題は親の責任
 これからの子どもの健康問題をどう考えていったらよいか。
 現指導員会長の吉沢憲一さん、副会長の内藤恒人さん、それに今度役員の改選があって、新しくOB会長に推薦された高見沢佳秀さん、副会長の今井恭夫、佐藤義隆さんのみなさんに、ご意見を伺ってみた。
 高見沢さんは、「子どもの健康意識も高めていかなくてはならないが、それには若い母親を教育しなければダメだよ」と言う。
 今井さんも「子どもの問題には親に責任がある」と言って次のように述べた。「若い母親でなかなか地域にとけ込めず、自分の殻に閉じこもってしまう人がいる。子どもが遊びに行くといえば、大体外ではなくて中で遊ぶが、3人寄れば、みな違った遊びをする。1人はパソコン、1人はゲーム、1人はマンガというふうに。つまり同じ遊びができないんだね。これは親の行動とも関係がある」と。

「やちの子教室」が大人気
 昔と違って、今は女性の人たちが集まって何かやるということがなくなった。だから若い女性も育児の知識がない。「今の嫁さんたちは子どもをつくることを知っていても育てることは知らないね。いろいろな機会を設けてやらないと自信が出てこない」と今井さん。

「やちの子教室」の七夕まつり
 八千穂村では、今「やちの子教室」というのを教育委員会が主催で開いている。保育園に行く前のの子ども、つまり3歳未満の子を持っているお母さんたちが、月に1度集まって、お互いの悩みを話したり、保健師さんの話を聞いたりしている。歯科検診もある。ときにはボランティアも出てくれて、紙芝居をしたり、七夕の行事をしたり、夏には水遊びをしたり、結構楽しいらしい。時間がきてもなかなか皆帰らない。八巻保健師さんたちが熱心に指導している。
 「あれはとてもいいよ。1回行ったら楽しいから毎月行く。若妻の教育になっているね」と内藤さんは大いに評価。だが「そこに集まった人たちも、子どもの年齢が過ぎるとまたバラバラになってしまう。本当は地区でまた続いていくといいのだが」という意見も。
 村では、そのほか、住民課主催で、1歳未満の子どもと母親を集めて、「子育てランド」というのを毎月開いている。結構村では若妻と子どもの健康教育には力を入れているのだが。

教育費の増加が負担に
 「子どもに虫歯が多いというが、お年寄りがいるとアメとムチではなくて、アメだけになっちゃうからね」と内藤さん。佐藤さんは、「いや、それができるだけでも子どものためにはいいんだよ。今は核家族になって育て方も知らない父親や母親が増えたからね。親を教育したらどうかというのはそれにつながっている」と。
 共働きが増えたのも、子どもをみるのが疎かになった一因でもあろう。父親の夜勤が増えたなど、仕事そのものが不規則になってきている。これは八千穂村だけのことではないが。
 その理由の一つに教育費の増加がある。今の一般的な家庭の教育費は収入の3割だそうだ。これは年間収入600万円の家庭だが、それより少ない人は4割、5割になる。佐藤さんは、「夫婦共働きじゃなければ、とても学校へ出せない」と言うし、高見沢さんも「1人の働きで子どもを大きくするなんて無理だよ」と言う。
 競争社会、カネ中心社会の歪みが大きく家庭にのしかかっているのだ。

親子セミナーを開いては
 「健康管理を本当に進めていくには、子どもでなくて親だよな」と高見沢さん。「衛生指導員がどのようにして親の意識を高めていくかが問題だ。各地区で若いお母さんや父親を集めて、いろいろな問題をクローズアップしていけば、皆関心を示してくれると思うんだけどな」と。

県農村医学会に参加した指導員
 「八千穂村では大人も子どもも同じ検査内容で検診をやっているから、いっしょに生活指導をやったらどうか」と佐久病院の小林保健師さんが提案する。「臼田町ではプログラムを開発して、親子の検診結果が同時に同じ報告書の面に出るようにしている。この家は全体に甘いものが多いとか、子どもは良いけれどお父さんの食生活はでたらめだねとか、見比べができるようになっている。ただ同じ家族でもプライバシーがあるから、そういうのは嫌いだという家族には出してはないけど」と。
 「そりゃ良いアイディアだ。親と子の会話ができるね」と内藤さんがたちまち賛成。「だけど、お父さんは異常が多いけどどうしたの、と文句を言われそうだな」と。
 佐藤さんからは、「衛生指導員会で、健康についての親子セミナーを企画したらどうか。皆に問いかければかなり集まってもらえるのでは。もちろん行政からもバックアップしてもらって」と提案があった。これには皆大賛成。他にPTAの人たちと合同で学習会をしたらどうかという意見も出た。

OB会は八千穂の宝だ
 「それには現役の指導員だけでは力が足りないから、ぜひOB会の人たちの力も借りたいね」と吉沢さんが言う。「OBは80人いるし、経験が豊富だから」と。高見沢さんも、「まずOB会のみなさんに村の現状をよく分かってもらって、皆で協力できる点はやっていこう」と前向きな発言。
 「なにしろOB会は八千穂の宝だもんね」と小林さんが持ち上げる。「そうなんだよ、栄子さん、いや保健師長さま」とちょっとおどけてみせた内藤さん、「結局はおれたちがOB会を利用すればいいんだよ」と。「そうだよ。そういうことだよ」と皆が同調したところで話は終わった。OB会の今後の活動に大いに期待しよう。
(かんとりい・とりお)

 この連載は、健管OBの松島松翠、横山孝子、飯嶋郁夫さん三人の共同執筆によるものです。“かんとりい・とりお”(country trio)とは「田舎の三人組」との意味。