周産期母子医療センター
特色
周産期母子医療センターは、「地域周産期母子医療センター」として産婦人科と小児科、および小児外科が力を合わせて、第1次~3次までの周産期医療を提供します。地域の妊婦さんの妊娠・出産を支えるとともに、問題を抱えた妊婦さんの診療を行います。また、問題を抱えた新生児を集中管理しています。
診療内容
周産期母子医療センターは、これまで佐久総合病院本院の産婦人科・小児科が行なってきた産科・周産期医療を拡充し、小児外科も加わり行なっていきます。一区画に機能的に病棟・分娩室・NICU設備を併設することで、文字通り周産期母子医療センターとして、より高度で重篤な疾患に対する医療を提供します。具体的には長野県東信地域の地域周産期母子医療センターとして、異常妊娠や異常分娩を担います。重症切迫早産・早産・多胎妊娠・合併症妊娠・妊娠合併症などの妊娠管理、周産期管理を行います。小児科との密接な連携だけでなく合併症妊娠など他の診療科との連携も図り、総合的な医療を行います。小児外科として関連する疾患・病気が認められた場合には、当院で手術を行うことができるようになりました。しかし、当院では対応困難な場合には、日本小児外科学会の教育関連施設の親施設である長野県立こども病院に搬送することで対応ができるようになっています。
外来での妊婦健診から異常妊娠管理を行うことはもとより、退院後の地域の医療機関や行政、福祉との連携もこれまで以上に進めていきます。妊娠28~30週以前の新生児管理は困難なので、長野県立こども病院や信州大学医学部附属病院と協力し、重症切迫早産症例に対する診療を行います。28週以前の症例のこども病院や信州大学附属病院への母体搬送や、32週以降になった症例の逆搬送など妊婦さんの診療を連携して行います。
周産期母子医療センターは、佐久地域の一般の正常分娩の受け入れ施設としての機能も継続します。佐久医療センターは紹介型施設ですので、紹介状がない場合には保険外療養費が請求されます。そこで地域の妊婦の皆さまが受診を希望される場合には、できる限り地域の産科医療施設からの紹介状を用意し予約をとっていただくようにお願いしています。
産科医療施設や周産期医療に従事する医師・助産師の不足状態は続いており、妊娠後期まで妊婦健診は地域の他の産科医療施設にお願いしています。そして、妊娠後半に当センターに紹介いただき、妊婦健診を継続し、分娩にのぞむような連携を地域で勧めています。ご理解をお願いいたします。
他に、当院の分娩室はLDR型の個室であり、陣痛から出産後までを移動することなくゆったりと過ごせます。産後は母児同室となり、母児の触れ合いを大切にし、自律的哺乳も進めています。今後も分娩制限を行う予定はなく、開かれた産科医療を続けます。最近は、悩みや心の問題を抱えた妊婦さんや褥婦さんが増えています。そういった方に対しても、妊娠中から専門医と連携し相談を受けられるよう態勢を整え、産後・退院後も含めて多職種で連携を行い、支えていけるよう力を入れています。
他施設で出産された異常新生児の診療も行います。出産された新生児に異常があった場合には、24時間周産期センターにご相談ください。
紹介時のお願い
24時間体制で異常を抱えた妊産婦さんの受け入れを行います。新生児(病児)も同様に受け入れを行います。緊急でない症例は佐久医療センターの外来予約をあらかじめお取りいただき、紹介状を持参し来院していただきます。緊急の症例は直接病院にご連絡ください。担当者が責任を持って対応し迅速な受け入れを進めます。ただし妊娠28週未満の分娩が迫っている症例は当センターで新生児管理ができません。その場合は、まず県立こども病院への問い合わせをお願いいたします。
一般の妊婦健診や分娩に関しては受け入れを継続します。妊娠初期から後期に至るまでの妊婦健診に関しては、できれば地域の他の施設にお願いしています。いつでも異常が生じた場合には、現在通院されている施設から当センターへ紹介をいただければ受け入れをいたします。異常症例に限らず帰省分娩や分娩希望の場合でも、電話予約を取っていただき、予約日までに紹介状を当院へご送付(FAX)いただくことをお願いいたします。当日の妊婦健診が速やかに進むためには、あらかじめ診療情報の整理が必要になります。
妊娠中の皆様の新型コロナウィルス感染に関して
① はじめに
新型コロナウィルス感染症が世界的に拡がっています。日本でも未だ猛威を振るっています。新型コロナウィルスは、一般的な風邪を起こすウィルスの仲間です。特に胎児へ直接影響を及ぼす危険性は指摘されていません。一般的には妊婦さんは重症化する危険性があるので、注意を払うように言われています。けれどもこれまでの日本の妊娠中の感染例では重症化する場合は少ないことがわかっています。それは妊娠中であるための慎重な行動や周囲の皆さんの配慮が安全性を高めた結果もあるでしょう。 妊娠中の感染はたとえ赤ちゃんに悪影響を与えていなくても妊婦さんを不安にさせますから、感染しない事、そして感染を避ける生活の工夫が必要です。具体的には、3密を避ける 頻回の手洗いとアルコール消毒 マスクの適切な使用 不要な外出を避ける、が望まれます。
② 感染を疑う場合や、体調不良の場合
現在は新型コロナウィルスの対応は各地の保健所が中心になって進めていますが、今後の感染状況の変化でそのしくみは変化する可能性があります。そんな中でも、妊娠中の体調不良の時には、最初にかかりつけ医である産科の施設に連絡をすることが適切です。その上で指示されたアドバイスに添って対応して下さい。
③ 感染がわかった場合や濃厚接触者になった場合
通院中の産婦人科に連絡をして、その指示に従って下さい。無症状か軽症の場合には入院の必要は無いでしょう。自宅等で家庭内感染が起きないように出来る範囲の対策を行った生活をして下さい。隔離施設での生活が必要になった場合も妊娠中であることを踏まえて適切な健康観察が行われますので、心配な点は隔離施設の観察者と相談をしましょう。上にお子様がいらっしゃる場合は接触が避けられない事は多々あると思います。マスクの着用や食事時間をずらすなどの可能な対策をしてみましょう。 最初は症状が軽くてもその後悪化する場合も稀にあります。当センターでは、感染された方や濃厚接触者で自宅待機されている方には産科スタッフが定期的に電話連絡を取り健康確認を行っています。お気軽にご相談頂きください。必要な時には「分娩室直通電話 :0267-88-7246」までご連絡頂ければスタッフが対応致します。 隔離期間の指示は保健所がお伝えします。その期間を守って頂き周囲への感染の拡がりを抑える配慮が必要です。この期間中の妊婦健診は延期しても構わないとされています。隔離解除後の検診日はスタッフがご相談します。その後の健診は通常に進めて以前と変わらない対応に戻ります。分娩に関しても、新型コロナ感染症にかかった後でも時間が経てば、普通の対応となります(但し何らかの後遺症がある場合には配慮が必要になりますが、妊娠中はその可能性は低く当センターでも経験はありません)。 感染によって胎児に異常が起きる可能性は指摘されていません。また多くの場合中等症以上になることは稀です。高熱が出た時には適切な解熱剤をお伝えしたり処方したりします。また、妊娠中で無症状あるいは軽症であれば新型コロナに対する治療薬はほとんど必要とされていません。具体的な症状に対して処方は適宜対応致します。
新型コロナウィルス感染症の症状が悪化した場合
新型コロナウィルス感染症の症状が悪化した場合(母体の救命の必要性に迫られる場合)には、妊娠の中断が必要になったという報告はあります。それは妊娠週数によって、妊娠の中絶や早産させるという対応になります。当センターではまだその経験はありません。
1、妊娠初期~後期 妊娠初期の感染で、胎児に異常は起きる可能性は高くはならないとされています。新型 コロナウィルスに催奇形性は無いとされています。ご心配は無用です。感染することで産 科の病気にかかりやすくなるとは言われていません。感染対策に注意をしながら 過ごしましょう。
2、分娩を控えた時期 妊娠末期で隔離期間が妊娠10ヶ月にかかる場合は分娩に備えた対応が必要になります。新型コロナ感染症の隔離期間中に分娩になる場合は、三つの点への配慮が必要になり ます。一つは分娩による体力の消耗のため新型コロナ感染症の病状の悪化です。もう一 つは新生児への感染の予防の必要性です。三つ目は我々スタッフへの感染の予防(クラス ター発生の防止)です。 陣痛が始まった場合や破水があった場合には入院の検討が必要になります。分娩室直通電話にご相談下さい。迷ったりはっきり判らなかったりする場合でも構いません。適切 なアドバイスを行います。 感染中に入院する手順は通常とは全く異なる部分があります。スタッフの指示に合わ せて行動して下さい。
一緒にお見えになるご家族(関係者)は院内には立ち入 れません。入院後の連絡や状況の説明は電話で行いますので、車内で待機もしくはお帰り 下さい。入院荷物の運搬もスタッフが行います。 入院される部屋は、新型コロナ感染症用の分娩室か、感染症者用病棟の病室になります。 入院中は許可なく病室の外には出ることは出来ません。スタッフが適切に訪室し観察さ せて頂きます。 分娩経過が順調であれば、コロナ専用分娩室での経膣分娩に望みます。しかし分娩 経過に時間を要する場合には、産婦さんの体力の低下や周囲のスタッフへの感染(クラス ター発生)の予防のため緊急帝王切開の分娩方法に変わります。新型コロナ感染中の妊婦さんの分娩では日本では6割以上の方が帝王切開になっています。あらかじめ感染され た場合には帝王切開の分娩になる可能性をご理解頂きお気持ちを整えておいて下さい。 もちろん母体や胎児に異常が起きた場合にも同様です(帝王切開になる場合には、感染し た産婦さんを清潔な領域である手術室に移動し準備するため、通常の帝王切開以上に準 備時間が必要になってしまいます)。帝王切開自体は通常と変わりません。 赤ちゃんとの接触では出産時から特別な配慮が必要です。この点はお母さんには辛い 点ですので是非ともご理解が必要です。
出生後の生活及び授乳中の注意点
通常子宮内での胎児感染の可能性はとても低いことが判っています。日本での約1000 例以上の報告では子宮内で既に新型コロナに感染していたと判断された新生児は2例の みです。産まれる赤ちゃんには ①出生後の感染を防ぐこと ②新型コロナ感染症にか かっていないことの確認が必要にあります。 そのため、出生後お母さんとの直接の接触は現時点では禁止されています。つまり赤ち ゃんを抱いたり触ったりは出来ません。出生直後は離れた位置でご覧頂く面会にとどま ります。隔離期間中も直接お会いすることは出来ず、写真やタブレット等での動画面会と しています。また、母乳そのものにはウィルスは含まれないことは判っていますが、直接哺乳や搾乳 の手技で赤ちゃんに感染してしまう危険性があります。そのため、現時点では母乳保育は 隔離解除後に開始することにしています。それまでの母乳は破棄になります。病院内の感 染対策に従い、クラスター発生予防も含め感染病室からの様々の物品の持ち出しを禁止 としている為、搾乳した母乳の持ち出しは出来ません。この点は我々スタッフも非常に心 苦しく対応策を日々検討していますが、ご理解頂きますようお願い致します。また、決し て母乳育児を進めないわけではありません。隔離解除後に母乳育児が行えるように入院 中より乳房マッサージや母乳育児のための指導は進めております。赤ちゃんを始めて抱 っこするのは隔離解除以降になってしまいます。以後の育児は慣れない点もあるでしょ うが、ご相談に対応致します。楽しい育児生活を願っております。
授乳中にも感染は起きてしまいます。やはり症状は軽いことがほとんどです。中等症以上の症状でなければ、感染しても自宅で赤ちゃんと過ごすようにしていただいています。その場合、赤ちゃんとの接触の前には、その都度不織布マスクを付けてよく手を洗いましょう。授乳も構いませんが、乳房や乳首を綺麗にして感染を防いで下さい。 新生児に感染することもありますが、大人以上に症状は軽いようです。また、母乳には母体の免疫や抵抗力を赤ちゃんに及ぼす効果があるため、却って人工哺乳よりメリットがあると言われています。 産後1ヶ月健診までの間に濃厚接触者になった場合や陽性になった場合には産科病棟にご連絡下さい。2週間検診や1ヶ月健診の日程調整が必要になる場合があります。1ヶ月健診依拠の授乳に関しての相談は産科外来へ、赤ちゃんに関しては最寄りの小児科もしくは医療センターの小児科外来にご相談下さい。我々産婦人科スタッフは、たとえ新型コロナ感染症になっても元気で過ごし健康な赤ちゃんをお産みいただくように願いご支援致します。
新型コロナワクチン接種について
新型コロナワクチンに関しては様々な情報が入り乱れています。きちんと整理すると、このワクチンの妊婦さんに対する安全性は高く有効性も認められています。胎児への安 全性も確認されています。そして日本の検討で、ワクチンを接種された妊婦さんが新型コ ロナウィルスに感染する頻度は少し低下することが判っています。逆に感染してしまっ た妊婦の8割以上がワクチン未接種であったことも判っています。更に接種する事で感 染しても重症化する危険性が低くなることも証明されています。ワクチン接種は義務で はありませんが、その安全性と効果は確認されています。妊婦さんや赤ちゃんの健康を考 える産科施設としては、ワクチンの接種をオススメします。妊娠初期であってもワクチン の接種には問題が無いとされていますが、ご心配でしたら妊娠12週までの器官形成期を 過ぎてからの接種をお勧めします。これはワクチンに限らず、その他の薬剤でもお伝えし ている配慮です。 ワクチン接種後の発熱や疼痛は非妊時と同様でその頻度や程度は特別変わりません。 その症状で妊娠経過に異常が起きる可能性はとても低いでしょう。 接種は1回だけでも効果があります。接種できる機会があれば進んで接種していただ くことをお勧めします。例え産褥期でも構いません。
2022.10.19 佐久総合病院 佐久医療センター 周産期センター長 小口 治