〜「農民とともに」No.126〜



八千穂村健康管理
自分の体の歩みを知る
 中央・高岩ブロック会では、指導員の井出高正さんを中心に、女性の健康づくり推進員や区長、衛生部長さんとともに、「健診で見た私の体のあゆみを知る」というテーマで取り組むことにした。
 ブロック会でいろいろ話をしていく中で、昭和34年に健診が始まってから、32年間も毎年欠かさず受診している人が多いということが分かった。そこで皆でお互いの健診結果から見た体の変化を、経年的にグラフにしてみようじゃないかということになったのである。
 検査項目では、データの変化が分かりやすい血圧、コレステロール、血色素の変化を取り上げた。また肩こりや腰痛など、体の痛み具合が分かる農夫症症候群の項目も取り入れた。総合判定や生活の変化の様子も分かる範囲でグラフ化してみた。
 これはなかなか良い着想であった。年を追うごとに次第に検査異常や疾病が増えていくのがグラフでよく分かったし、自分たちの体を見直すよい機会となった。
 中には昭和35年から欠かさず健診を受けていた95歳になる男性で、血圧もコレステロールも血色素も32年間殆ど変わらないばかりか、農夫症はむしろ減っていたという例があった。これには皆びっくりしたという。

ゴミ収集に取り組む

コンポスターの使用方法を説明する岩崎さん
 天神町ブロック会では、指導員の岩崎正孝さんが中心になってゴミ収集の問題に取り組んだ。今まではゴミの提出の仕方が一定していず、集められたゴミの山は大変汚かった。村では、ゴミの収集袋を指定の袋にして、燃えるゴミと燃えないゴミとを分けて提出するように呼びかけていたのだが、なかなか徹底しなかった。
 それに、他地区の親が、子どもを学校へ送りながらついでにゴミを捨てていくというのもある。袋も指定の袋ではなく、買い物に使うビニール袋が主だった。「再利用だからいいじゃないか」とうそぶく人もいた。
 そこで、きちんと指定の袋に入れて提出するように、手分けして街頭指導を行った。岩崎さんも毎日、現場に足を運んだ。衛生部長さんに熱心な人がいて、熊手を持っていって「それはダメだ」と注意してくれる人もいた。やがて次第にこのやり方は徹底し、全村に普及していった。

生ゴミで堆肥づくり
 さらに岩崎さんは、ブロック活動の1つとして、生ゴミを堆肥として利用する方法に力を注ぐ。
 現在の地球は著しく汚染が進んでいる。せめて自分たちの生活の中から出る生ゴミくらいは堆肥化して地球に戻してやりたいというのが、岩崎さんの願いであった。
 そこでアンケート調査をしてみたら、生ゴミを利用しての堆肥化センターを作ってほしい、コンポスター(生ゴミなどで堆肥をつくる容器)を支給してはどうか、講習会をして良い堆肥づくりを教えてほしいなどの意見が多かった。
 堆肥化センターについては村では計画がないということで、岩崎さんらは、コンポスターの使い方についての講習会に重点を置き、それによる堆肥の作り方をくわしく説明してまわった。多くの人が集まって受講し、次第にコンポスターの利用者が増えていった。

念仏講での古老の話
 その他にもさまざまな調査研究が行われた。「薬草について」「足腰の痛み予防」「歯の健康を保つには」「台所仕事の変化」「高齢者問題に取り組んで」などである。各ブロック会の発表は、毎年の健康まつりの日と決められたが、これがまた健康まつりの内容を高めるのに大いに役立った。
 変わった研究では、清水町・千ケ日向ブロック会で、指導員の小林茂松さんと内藤恒人さんが中心に行った実験がある。最初は「体をこわさないお酒の飲み方」というテーマで学習したが、どうもありきたりで面白くない。ちょうどその頃念仏講で、ある古老から、「仏が抱いた酒はとてもうまい」という話を聞いた。
 昔は土葬だったから、お酒の好きな人が亡くなると、一緒に酒の一升ビンを埋める。他の人が亡くなったとき近くを掘るのだが、そのビンが出てくる。それを飲んでみると、全然酒の味が変わっていないばかりか、むしろ味がよくてとてもうまいというのであった。酒好きの2人がこれを見逃すわけはない。早速これを試してみようということになった。

村の霊園に酒を埋めて
 そこで村の霊園を利用して、お酒の1升ビンを埋めることにした。内藤さんは電気工事屋さんだから垂直の穴を掘るのはお手のもの。あっという間に機械で深さ1メートルの穴を掘った。ビンには後で出せるように目印の紐をつけ、温度計とともに埋めた。

酒を埋める内藤さん(左)と小林さん(右)
 温度計は地中の温度を測るためで、毎日ウオーキングをしている女性推進員が週2回計った。一冬をはさんで10カ月間埋めたが、温度は最低マイナス2度、最高19度だった。これは酒蔵の温度と似ているという。
 10カ月経って地中から掘り出し、霊園、台所放置(一度開栓と未開栓)、新酒の4本のビンを並べて利き酒形式でテストをした。その結果、地中に埋めたものが最もまろやかでうまいということになった。これはアルコール分が少しとんだのではという意見もあったが、村内の酒造会社の成分分析ではアルコール度には変化がなかった。かくして奇妙な実験は終わったが、人間の五感の精度の高さが証明されたと2人は満足げだった。
 だが、酒蔵会社の杜氏さんの話では、酒は新酒がいちばんうまいので、時間が経つほどまずくなるということだった。さてどちらが本当なのだろうか。
(かんとりい・とりお)

 この連載は、健管OBの松島松翠、横山孝子、飯嶋郁夫さん三人の共同執筆によるものです。“かんとりい・とりお”(country trio)とは「田舎の三人組」との意味。