〜「農民とともに」No.124〜




八千穂村健康管理
はやくも定員オーバー
 時期が少し遅れたが、平成2年2月10日に第一期の佐久地域保健セミナーが開講した。
 このセミナーには10回の講座が組まれていて、1カ月に2回ぐらいの割りで進められるが、受けやすいように土曜日の午後の時間帯が当てられている。定員は30人のところ、第一期には39人も応募があった。
 衛生指導員会では、毎年数人が交代で参加することを決めていたので、今回は現役から会長の渡辺憲太郎さんを先頭に、高見沢佳秀、岩崎正孝、杉本末吉のみなさんとOB会会長の井出佐千雄さんの5人が参加した。
 参加者の大半はJA女性部と町村の保健補導員の現役、または役を終えた人たちだった。保健補導員は任期は2年だが、それで交代してしまうのは、町村の保健婦も残念だし補導員さん自身も寂しいという声があり、なんとか勉強を続けたいということで多く応募があったようである。この点では衛生指導員も同じであった。

「劇は俺たちがやるぜ」
 このカリキュラムの特徴の一つは演劇上演があることである。しかも開講第1日に組まれている。当初は都合で、衛生指導員が健康まつりで上演した「看る」をビデオで見る予定だったが、「それじ
ゃ、おもしろくねえな。俺たちが上演しよう」と指導員たちが劇上演を買って出た。

セミナーでのグループワーク
 もちろん受講生の5人だけではできない。今回は受講しなかった他の指導員も全員応援に駆けつけた。舞台装置をつくるのはお手のもの。指導員の熱演は、初めての受講生には大きなショックと感動を与えたようだった。
 女性の受講者からは、「高齢化が進む現代社会の様相を目の当たりに見る思いで、じっと涙の伝わる頬を押さえながら見入った」とか「どこにもあり得る話で、わが家も全く同じく泣かされたことを思い出し、涙もポロポロでした」とかの感想が寄せられた。
 この劇は、毎回のカリキュラムに入っていて、第2期のセミナーには、第1期の卒業生が上演することになった。そして第3期には第二期の卒業生が上演するというふうに、順に受け継がれていった。現在では、セミナー同窓会の演劇班が上演している。受講生同士のすばらしいつながりであった。

卒業後は同窓会を結成
 セミナーは、大成功であった。劇をはじめ、各講座における衛生指導員の言動はみんなの注目を浴びた。ある婦人の受講者からは、「八千穂村の衛生指導員のみなさんの活動の一部を聞かせていただき、地域に根ざして積極的に取り組んでおられる姿に感心した」との声が寄せられた。
 またJAのある生活担当者は、「住む場所、組織等、いろいろ違いはあろうとも、問題意識を同じくする人同士が手をつなぎ合うことができたことは、何物にも勝るこれからの地域づくりの力になり得るのではないだろうか」と述べている。
 最後の旅立ち交流会の席で、受講生はこのまま別れるのは惜しい、何か集まりを持ちたいという雰囲気になっていた。そのとき、佐久市の坂口光邦さん(元教員)が立ち上がり、「同窓会をつくろうじゃないか。会長には八千穂村の高見沢さんを」という提案をされた。もちろん満場一致でこの提案は承認され、第1期生の同窓会が発足した。第2期、第3期と卒業生が増えるにつれて、これはやがて、全体の「セミナー同窓会」として発展することになる。

地域での活動が始まる
 平成3年6月、第1期卒業生の補講が行われたとき、高見沢会長はじめ参加者の提案により、同窓会に食と環境班、高齢化社会班、演劇班、機関紙班の4つの班が結成され、地域での「班活動」が始まることになった。

千曲川環境ウォッチング(食と環境斑)
 指導員の岩崎正孝さんは、食と環境班の班長になったが、地区を廻っての料理講習会の他に、毎年6月には千曲川環境ウォッチングをやることを決めた。岩崎さんはこう語る。「川上村川端下の水はきれいで冷たかったねえ。それに比べると、臼田の水は汚かった。川がドロドロしていて、とてもこの中に手が突っ込めるかという感じだった」と。現在では、子どもたちもいっしょに参加している。
 演劇班の班長になった指導員の青木秀夫さんは、第2期の受講生である。地区の要請であちこち劇を上演して歩いた。佐久地区だけでなく、隣の山梨県のある町からも頼まれて300人を前に上演したこともあるが、いちばん印象に残っているのは、八千穂村の20世帯しかない鷽の口区で劇をやったときだという。小さな公民館で、ほんとに膝つきあわせての上演だったが、みんな涙を流して夢中で観てくれた。「若月先生が劇を始めたときは、おそらくこんなふうだったんだなあ」と思ったら、胸が一杯になったという。

種をまく人になろう
 そのほかに第3期生卒業直前に、市町村単位での「支部活動」も始まった。同じ地区同士の取り組みだが、これには各町村の保健婦さんたちも積極的に支援してくれた。八千穂村の支部長は指導員OBの井出左千雄さんが推された。
 かくして同窓会の主な活動は3つになった。1つは会全体としての取り組み、2つは共通の関心を持った人たちでつくられた班活動(後に音楽班が加わる)、3つは市町村単位での支部活動である。その共通のスローガンは「種をまく人になろう」である。
 この同窓会活動は次第に佐久地域に根づきつつあるが、そのルーツは、あり方や生い立ちも含めて、間違いなく八千穂村衛生指導員にあったのである。14年度末には、同窓会員は合わせて404人(うち男性42人)になった。 (かんとりい・とりお)

 この連載は、健管OBの松島松翠、横山孝子、飯嶋郁夫さん三人の共同執筆によるものです。“かんとりい・とりお”(country trio)とは「田舎の三人組」との意味。