〜「農民とともに」No.114〜


八千穂村健康管理

健康大会を開いたが
 八千穂村では、毎年の健康健診が始まる前に、佐久病院の医師などを招き、講演会を開いていた。これは受診啓発と健康教育という両面を兼ねていた。
 これは役場の計画で実施してきたもので、それなりの成果はあげてはいたが、講演会はどちらかというと、話を聞くということだけに終わって、ややマンネリ化の傾向にあった。そこで何か違う形のものがないだろうかと衛生指導員の集まりなどで、何回か話題として取り上げられるようになった。
 そこで昭和56年11月に、初めて「健康大会」を開くことになった。これは医師の講演会を主にしながら、保健関係や料理の展示、体力測定などをつけ加えたもので、よりみんなが楽しく参加できるものにということであった。指導員の高見沢佳秀さんは、八郡区で以前、お年寄りの関節の動き具合や幅跳びなどの計測をやった経験があったので、早速体力測定の仕事をまかされた。
 その後、2回ばかり健康大会が開かれ、内容や当日の役割など若干の広がりは見られたものの、結局は、役場主導のもとに一部関係者の取り組みということで、住民自身が自ら企画して参加するという形にはなっていなかった。

焼鳥屋の2階で大議論
 昭和59年の春、衛生指導員会長の佐藤英男さん、副会長の高見沢佳秀さんと今井恭夫さんの3人が、ある焼鳥屋の二階で、例によって酒を酌みかわしていた。

健康管理25周年記念講演会(S59.3.27)
 雑談の中から、話はいつの間にか医師たちの講演会の話題になっていった。「講演もいいけど、どちらかというと話を聞くだけに終わってしまって、俺たち村民の身にしみた取り組みになっていねえんじゃないか」と高見沢さんが言い出したのが発端になった。
 佐藤さんも「それもそうだな。だけど何かうまいやり方があるかい」と相づちを打ちながら、「おら等だけじゃどうもうまい知恵が出てきそうもねえな。まだ時間も早えから佐久病院の若い衆を呼んでいっしょに話をしてみらざあ」と提案。「そうだ。佐久病院の八千穂担当の衆と今日も飲むのもいいな」と今井さんも賛成した。
 佐久病院健康管理部では、集団健康スクリーニングの実施で、健診が全県的に広がっていたので、それぞれ地区担当を決めて取り組んでいた。その中で当然八千穂担当というのもつくられている。
 早速、たまたま病院に残っていた保健婦の佐々木徳子(現姓・菊池)、小須田文恵(現姓・征矢野)、事務の飯島郁夫、島田三代治ら、八千穂担当の面々が焼鳥屋に駆けつけてきた。
 病院の職員も、思いは同じようだったようで、顔を寄せ合っての話合いが続く。結局、住民の代表が寄り集まって実行委員会をつくり、「健康まつり」というのをやったらどうだろうかという話になって議論がもり上がり、その夜は更けていった。

役場の同意を得る
 「健康まつり」という考えに至ったのは、秋田県象潟町の上郷健康センターが中心になって、昭和47年から開いていた「上郷健康祭」が頭にあったと思われる。ここへは、役場の衛生係と佐久病院健康管理部で二回ばかり視察に行っている。
 早速、次の衛生指導員会で会長より提案をすることになった。佐久病院からあまり口を出すのは、担当者の面子もあり、好ましくないということで、指導員会として提案することにしたのである。
 ところが当日、根がまことに実直な建具屋さんの佐藤会長さんは、「エー、この間、病院の人たちと相談したところ…」と始めたものだから、隣に座っていた高見沢さんはビックリ。あわてて会長の袖を引っぱったもののあとのまつり。役場の意向はどうかと心配したが、結果は、出浦住民課長さんや担当者の方も賛同してくれて、取り組みのための予算やその他の工面も積極的にしてもらえることになった。村もやはり今までの「講演会」方式だけでは限界を感じていたようである。

50人の実行委員会
 こうして、しばらく準備を重ねた後、9月に、公民館、区長会、農協、婦人会、商工会、老人クラブ、社協、婦人の健康づくり推進員、食生活改善協議会、衛生指導員会、佐久病院、役場(農政・衛生)など、村内の各種団体の代表者50人が集まって、第1回健康まつり実行委員会が開かれた。
 そして実行委員の手で、すべて計画立案、運営をすることで、11月に「第1回健康まつり」を開くことが決まった。実行委員会の中に、「企画宣伝部」「展示発表部」「健康づくり部」の三部会がつくられ、実行委員がそれぞれ分担して取り組むことになった。

指導員でアンケート調査

アンケートの集計をする衛生指導員
 しかしここまでこぎつけたものの、さあ大変である。とても時間がない。指導員たちの顔に、本当にできるんだろうかと不安の色がただよう。企画・運営のほかに、指導員としても何かやらなくてはならない。ここで力を発揮したのは、やはり三役だった。結局、村民のみなさんの健康についての考えを知るために、アンケートを行って、健康まつりの当日発表しようということになった。
 アンケートの内容については、衛生指導員会議で、夜遅くまで何回も検討した。項目は大きく分けて、病気(特にがん)に対する意識、健康健診についての考え、生活状態の調査、その他の4項目とし、それぞれいくつかの質問項目を設定した。そして18歳以上の全村民を対象に、各地区の衛生部長さんの協力を得て、アンケートを実施した。住民の関心も深く、回収率は78.6%で、約3000人の回答が集まったのであった。
(かんとりい・とりお)

 この連載は、健管OBの松島松翠、横山孝子、飯嶋郁夫さん三人の共同執筆によるものです。“かんとりい・とりお”(country trio)とは「田舎の三人組」との意味。