〜「農民とともに」No.113〜


八千穂村健康管理

松川通いが始まる
 松川町の「健康を考える集会」は、衛生指導員たちに大きなインパクトを与えた。指導員たちは、健康管理の中でどういう役割を果たしたらよいか常々悩んでいたので、集会への参加で眼からうろこが落ちたようであった。以来、毎年何人かのメンバーが、交代で健康を考える集会に参加することになる。
 一般に年配者のほうが自分の健康管理に熱心で、若い人ほど健康には無関心であるというのはどこの町村でも同じだ。それは若いうちは自覚症状が殆ど無く、年をとるにつれて体のあちこちが具合悪くなってくるから当然ともいえようが、若い人をどう健康面に目を向けさせるかということが、どこでも悩みの種になっている。
 ところが松川町では、逆に若い人たちが、健康問題に熱心に取り組んでいる。農薬散布の際の防除着の改良や防除用ヘルメットの作製に取り組んでいるのは、すべて20代、30代の若い青年男女だ。子どもの虫歯予防に取り組んだのも若妻会である。
 それは一体なぜなのか。

モルモットになろう
 その答えの一つになると思われるものに、指導員たちの興味をひいた「モルモットの会」の活動がある。「モルモットの会」といっても、別にモルモットを飼ってひと儲けしようというわけではない。自分たち自身がモルモットになって実験してみようかという、ユニークな発想から生まれた会なのだ。

心電図に見入る若い農業従事者たち
(集団健康スクリーニング会場にて)
 事の起こりはこうである。
 集まったのは、松川町K地区の果樹専業農家の男性グループ。年は30代から40代だが、みな健康には自信がある。むしろ病気のほうが寄りつけず、尻尾を巻いて逃げていってしまいそうな屈強な者ばかりだ。
 ところが、総合健診(集団健康スクリーニング)を受けたら、コレステロール、中性脂肪、血糖、尿酸、GOT、γ−GTPなど、そのいずれかに異常のマークがついているのが殆どということが分かった。
 こりゃいったいどういうわけだと、お互いに話しあってみると、どうも食生活が関係しているらしい。そこで本当に食生活が関係しているのかどうか、自分たちでいろいろなものを食べて、その後血液がどう変わるか調べてみたらという意見が出て、保健婦に相談してみることになった。
 保健婦は、待ってましたとばかり、「そりゃいい。私らも手伝うでひとつやってみたら」とけしかける。そういうわけで、とうとう自分たちで実験(いや実践というべきか)を始めることになったという次第。

たらふく肉を食べて
 集まったメンバーは16人。
 まず日常食べる機会の多いジンギスカンの焼肉会。たらふく肉を食べて、その前後の血液を調べる。次の月はアルコールの影響。野菜だけをおかずにして、しっかりと酒を飲む。次はバイキング方式によるパーティ。何種類ものおかずをつくり、自分の好みのものばかり腹一杯食べる。
 こういう実践は出席率がよい。最後まで落伍者は1人も出なかった。もちろんそれだけでなく、きちんと栄養士に「バランス食」を作ってもらって、それを食べる会も行なった。
 さて、血液検査の結果は?
 焼肉会の翌朝の検査では、とくに中性脂肪の変化が目についた。バランス食のあとは、中性脂肪の変化が最も少なかった。アルコールの場合はその中間だった。ともかく1回の食事ですぐ変化するのは中性脂肪だと分かった。

会食会から学習会へ

指導した公民館社会教育主事の松下氏(当時)
 ところが、中性脂肪といったってよく分からない。それならみんなで学習しようということになり、保健婦、栄養士に頼んで資料をつくってもらい、中性脂肪、コレステロール、尿酸、アルコールなどについて、会食会をやりながら学習を始めた。
 この会のモットーは「よく食べ、よく飲み、よく学ぶ」である。こうして会を重ねるうち、いつもなら、のどにつかえるくらいよく肉をたべる人が、次第に脂身の少ないところだけを食べるようになったとか、酒も大飲みはしなくなったという変化が出た。
 メンバーたちは、「いつも総合健診で相談のほうへ回されたが、今年は良いと言われたので嬉しくて…。体重は6キロ減ったけれど、まだまだ落とすに!」とか、「来月に予定している今年の総合健診が待ち遠しいな。どう変化しているか、その読み取りの学習会が楽しみだに」と話している。

得になって楽しいこと
 この取り組み発表を聞いて、衛生指導員たちはどう感じたか。こんな意見が次々と出た。
 「自分たちで発想したという点がいい。自分たちで考えたことだから、皆とても熱心になる」「酒をふんだんに飲んでご馳走を食べられるなんて、出なきゃ損だという気持ちにみんななるね」「みんなとても楽しそうだ。落伍者が一人も出なかったのも、やはり楽しいからだろう」「町で学習会を企画するんではなくて、自然と学習会を持とうという気持ちになっていったのがいい」「この取り組みが毎年の総合健診につながってる。取り組むうちに、健診に対する関心が自然に高まっていったのは見事な結果だ」等々。
 健康管理活動を広げていくためには、1つはそれが自分たちの得になること、もう1つは楽しいことが大事だということだ。衛生指導員たちの度重なる集会への参加は、決して無駄ではなかった。これはやがて、指導員を中心とした「地区ブロック活動」として花開くことになる。
(かんとりい・とりお)

 この連載は、健管OBの松島松翠、横山孝子、飯嶋郁夫さん三人の共同執筆によるものです。“かんとりい・とりお”(country trio)とは「田舎の三人組」との意味。