当院は「予防は治療に勝る」の考えのもと、検診活動・生活実態調査・教育活動などを通して地域の保健予防活動に力を注いでいます。そこでこの薬剤部発信のホームページも何回かに分けて生活習慣病をテーマとして掲げ、取り組んでいきたいと思います。


 高脂血症は高血圧、糖尿病、喫煙などとともに、動脈硬化のリスクを高める重要な因子で、読んで字の如く、血液中の脂質の値が高くなる病気です。血液中の脂質には幾つか種類がありますが、ここでは代表的なコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)についてお話します。話をわかりやすくするためにちょっとお肉に例えると、中性脂肪は肉の白身、コレステロールは赤身の中に含まれる脂質と考えていただければ良いと思います。つまり高脂血症は高コレステロール血症と高トリグリセライド血症を含め、血清脂質の高い状態と定義します。

 ところでコレステロール、中性脂肪はいつも生活習慣病の敵として槍玉にあげられますが、本当に悪さばかりしているものなのでしょうか?決してそんなことはありません。コレステロールも中性脂肪もヒトが生きていくために必要不可欠なものであり、不要というわけではありません。コレステロールは細胞(生物を構成する最小の単位)の膜の成分であり、男性ホルモンや女性ホルモンの原料であり、胆汁酸という食べ物の消化液の原料でもあります。欠かす事のできない重要な成分です。また中性脂肪もエネルギー源として欠かせません。

 しかし悲しい哉!コレステロールにも中性脂肪にも適切な濃度があります。その一定の基準を越えて上昇してしまうと、かえって体に不利益をもたらします。具体的には高脂血症が血液をドロドロにしてつまりやすくしたり、血管をもろくして心筋梗塞や脳梗塞の危険性を高めます。



 高脂血症の診断基準は幾つかあり、総コレステロール値で220mg/dl以上、LDLコレステロール値で140mg/dl以上、HDLコレステロールが40mg/ml未満、中性脂肪が150mg/dl以上を高脂血症と呼んでいます。

 HDLは血清脂質(リポタンパク)の中で比重が高く、血管に留まっている(後述する)LDLを回収し、肝臓まで運搬する働きがあることから、コレステロールの掃除屋と呼ばれ、HDLの中に含まれるコレステロールを善玉コレステロールと呼びます。このコレステロールは、その特徴から一定以上に高くなることが理想的となり、40未満となってしまった場合は、掃除屋の不足という事で「高脂血症」の定義に含まれてしまいます。

 一方、LDLは比重が低く、血管壁に留まって動脈硬化のリスクを高める事から、LDLに含まれるコレステロールを悪玉コレステロールと呼んでいます。このコレステロールはHDLコレステロールと異なり、ある一定濃度よりも低い事が理想となります。140を越えた場合には「高脂血症」と定義されます。

 今までは高コレステロール血症は、総コレステロール値で評価される事が多かったのですが、最近はHDL、LDLの値で評価されます。
 ちなみに 『総コレステロール≒HDLコレステロール+LDLコレステロール』 と考えて構いません。

 今までは上記のように全ての患者様を単にコレステロール値と、中性脂肪の値で評価していましたが、日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版では、患者様をリスクごとに振り分け、目指すコレステロールのレベルを区分しています。(表参照)



  TC:総コレステロール  LDL-C:LDLコレステロール、
  HDL-C:HDLコレステロール  TG:トリグリセライド
  冠動脈疾患とは、確定診断された心筋梗塞、狭心症を指します。
  LDL-C以外の主要冠危険因子としては、
    ・加齢(男性≧45歳、女性≧55歳) ・高血圧 ・糖尿病(耐糖能異常を含む)
    ・喫煙 ・冠動脈疾患の家族歴 ・低HDL-C血症(<40mg/dl)
    のうち、あてはまるものをカウント します。
  糖尿病があれば他に危険因子がなくともB3とします。
  脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の合併はB4扱いとします。

 このガイドラインではリスクの高い人はより低いコレステロール値を目標とし、リスクの高くない人にはあまり制限を厳しくしていません。つまり今まではリスクが低く薬物療法の対象でない人にも、薬が処方されていることが多かったのですが、このガイドラインにより、不要な薬物の投与をせずに済む人も出てくると思われます。



 高脂血症の改善はまず食事療法、運動療法から試みられます。食事療法では総摂取カロリーを抑えたり、脂っこいものを摂ることを控えます。最近和食が見直されてきているのも、脂肪分が洋食に比べ比較的少なく、ヘルシーであるからだと思われます。また運動療法ではウォーキングのような、激しすぎず、しかし多少汗ばむようなものが推奨されています。そしてある程度これらの療法を試みて効果が得られなかった場合に限って、薬の投与が検討されます。どのような食品の摂取を控え、どのような食生活をしたら良いのかは、なかなか難しいところもあるでしょうから、人間ドックや各科外来において食事療法に関する注意のパンフレットや冊子などを配布しています。必要な方、興味をお持ちの方は御相談下さい。



 食事療法や運動療法が試みられた結果、それでもお薬が必要と診断された場合、そのお薬はどうやって決められるのでしょうか?


 高脂血症の治療薬には下記のようなものがあります。
  1.HMG−CoA還元酵素阻害薬(スタチン系製剤)
  2.フィブラート系製剤
  3.その他

(1).HMG−CoA還元酵素阻害薬(スタチン系製剤)は、肝臓、小腸でコレステロール生合成を阻害してコレステロールの値を下げます。しかし中性脂肪の改善は小さいといわれています。当院ではプラバスタチン(メバロチン)、シンバスタチン(リポバス)、アトロバスタチン(リピトール)を使用しており、その他にフルバスタチン(ローコール)、ピタバスタチン(リバロ)があります。

(2).フィブラート系製剤は、主に中性脂肪の合成を抑制します。当院ではベサフィブラート(ベサトールSR)を使用しています。他にクロフィブラート、クリノフィブラート(リポクリン他)、シンフィブラート(コレソルビン)、フェノフィブラート(リパンチル)があります。

(3).その他の治療薬としてはプロブコール(ロレルコ)、EPA製剤(エパデール)、ビタミンB2・パントテン酸・ニコチン酸類、エラスターゼ(エラスチーム)、コレスチミド(コレバイン)、ソイステロール(ヨウステロール)などがあります。


 薬には副作用が付き纏うものです。これら高脂血症治療薬にも様々な副作用が知られています。以下に代表的な副作用を紹介します。

 例えばHMG−CoA還元酵素阻害薬では、重大な副作用として肝機能障害、血小板減少、末梢神経障などを起こす可能性があります。またフィブラート系製剤では、重大な副作用としてアナフィラキシー様症状が挙げられます。またこれらの副作用とは別に、HMG−CoA還元酵素阻害薬でもフィブラート系製剤でも、横紋筋融解症という聞き慣れない名前の副作用が知られています。横紋筋融解症とはいったいどのような状態なのでしょうか?


 横紋筋融解症は、筋肉が変性・壊死を起こし、壊れた筋肉の細胞が血液中に流出する病態です。筋肉痛、脱力感、しびれなどを起こすことがあり、筋肉中のタンパク質であるミオグロビン(赤色)が尿とともに排泄されるため、尿が赤褐色になることがあります。症状が進むと、そのタンパク質が腎臓でつまった結果腎不全となり、放置すると最悪の場合死に至ることがあります。ただこれは放置して重症化した場合であって、初期症状が現れた時点で適切な処置をとっておれば、大事に至ることはほとんどありません。他の薬についても言えることですが、副作用の初期症状を理解しておくことがとても重要です。以下にプラバスタチン(メバロチン)の製造メーカーである三共株式会社が作成した注意書を示しますので、参考にして下さい。



 高脂血症治療薬を用いる目的は、単にコレステロール、中性脂肪を下げることではありません。目標はその先に有り、心筋梗塞や脳梗塞の発症を抑えたり、再発を予防することにあります。そのためには、薬を用いることによって本当に寿命が延長しているのかどうか、検証してみる必要があります。そして明らかに効果が認められる場合には、「エビデンスが認められた」というような言い方をします。
 様々な臨床試験が世界各国で行なわれていますが、HMG−CoA還元酵素阻害薬のひとつであるプラバスタチンを例にとると、国内の患者を対象とした各種臨床試験でも、心筋梗塞の発症や再発を抑えるというエビデンスが得られています。

 以上のように効果、副作用、エビデンスなどを総合的に考慮して患者様に最もあった薬を、医師は選択しているのです。


 以上で高脂血症のコーナーは終わりになりますが、動脈硬化などの虚血性心疾患の予防には、血圧のコントロール、血糖値のコントロールも非常に大切になってきます。今後それらについても取り上げて行く予定ですので、是非参考にして下さい。このホームページが皆さんの健康増進に貢献できれば幸いです。



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