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 「フライトナースの視点から」。
これは、毎月1回行われる「ドクターヘリ事後検証会」で私たちフライトナースが発表する際の表題です。「ドクターヘリ事後検証会」とは、その日のドクターヘリ事案の中から数件をピックアップし、その事案に関わった救急隊・フライトドクター・フライトナース・ヘリ運航会社・搬送先病院などでコメントを出して検証する場のことです。私が関わった事例が挙がったときには、この 「フライトナースの視点から」という言葉にはいつも悩まされます。
 救急隊の方は現場での状況や時間経過、ドクターへリサイドへの意見や疑問点を提示され、フライトドクターは病態や診療方法、質問に対するレクチャーなどを提示します。また、搬送先病院からは、搬入後の経過や初期治療に対する評価という内容のスライドが送られてきます。
 その中で、フライトナースである私は何をコメントすればいいのか…。毎回、パソコンの前で画面とのにらみ合いが続き、一向に進まない文章にパソコンの方が戦いを放棄し、休止状態に入ってしまいます。経過や治療内容について書いても医師の発表内容と重複しますし、「フライトナースの視点から」 という言葉のとおり、その事案に出動した看護師としての独自の視点の内容にしなければなりません。
 これを考えるときに、いつも、ドクターヘリに看護師が乗っている理由を考えてしまいます。看護師は気管内挿管はできませんし、薬剤も医師の指示なしでは使うことができません。医師が2人であれば処置の効率はいいはずですし、救命士さんが乗っていれば、現場にも強い。しかし、場所によって構成の違いはあるものの、日本の救命ヘリである「ドクターヘリ」には、医師と看護師が乗っているのです。看護師が現場に行って、何ができるのだろう…と、「フライトナースの視点から」という宿題が出るたびに考えさせられます。
 フライトナースが現場で実際に何をしているかというと、静脈路確保や気管内挿管・緊急脱気などの診療補助、傷病者の観察と記録、傷病者の精神的フォローやこ家族へのサポートなどです。救命のためには「診療補助業務」が最優先され、一番時間を割きますが、そのほかの業務もなくてはならないものです。看護師は1人しかいませんから、これを短時間で行おうとすると効率が悪く、ひいては傷病者の予後にも影響しかねないので、その出動に関わる救急隊・フライトスタッフ・警察などの他機関・目撃者などの関係者など皆さんに協力を要請し、協働し、「救命の連鎖」を現場から次へ繋いでいかなければなりません。診療のリーダーは医師ですが、そのコーディネートは日ごろの診療から鍛えられている (?)看護師が担う役割ではないかと田心います。
 実際の現場では、そういうことを意識的に考えて行動しているか、といえばそうではなく、どちらかといえば無意識的に、即応的に反応し行動しているような気がします。そしてそのベースは病院での看護業務、フライトナースとしての経験、それらに対する同僚などとのディスカッション、患者様・こ家族の反応などにより、日々培われているものと田心います。
 私は運航開始時からドクターヘリに関わらせてもらっていますが、「フライトナースの視点から」という内容についてスラスラと振り返りができないということは、診療補助の慌ただしさに追われて、「現場でただ1人しかいない看護師」としての役割を、その場その場できちんと考えて行動していないのではないか、何かが足りていないのではないかと考えます。救命のため即応的に行動するだけではなく、「患者様・こ家族の擁護者」である看護師
でもあるんだ、ということを常に意識して、その視点を常に忘れることなく、今後もドクターヘリ事業に携わっていきたいと田心います。
 今後ともよろしくお願いします。


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