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 「コードブルー、コードブルー、ガレージ前に集合してください」
 突如、けたたましい全館放送が繰り返され、と同時に小さいポッケのPHSが鳴り響く。
 ダッシュ一発、気合いを入れて(と言う程でもないが)階段を駆け下り、ドクターカーへと乗り込む。
 派手な赤色灯と大音響とを傍迷惑に放ちつつ現場へと向かう途上、要請元の消防本部(ないしは現着救急隊)と無線で交信。受傷機転・患者情報・ドッキング場所等を確認し、さまざまなシチュエーションを想定しつつ、これまたさまざまなシミュレーションを頭の中で繰り返す…。
 そんな生活から足を洗って早ひと月余り。と思いきや、今度はカーからヘリへと器を替え、相も変らぬヤクザな仕事で禄を食んでおります。カーとヘリ、この非なる二つの前に、「ドクター」と言う枕詞がぶら下がった途端、それらの異同はスピード以外、ほとんどノミの耳アカ程度になってしまいます。とは言え、それぞれに抗し難い困った特徴がございます。
 先ずはカー。こいつは時間(天候も)を選んでくれません。しかもどういう訳か夜半の依頼(しかも遠方、重症)が多い。前任地での当直では、己のPHS、救急1(ホットライン)のPHS、カーのPHSと全身PHSだらけのトーテムポール状態になりましたが、人手の少ない深夜の初療室、「緊急開胸! 胸あけるで!」などと緊張(と血の海)の真っ只中にいるときに限り、前触れもなく(当たり前か?)コードブルっちゃう訳である。「続きは誰か呼んでくれ!」とサイレンとともに闇夜へと消えていく私。1、2時間後、同じく開胸・心マ候補の患者さんを運び入れて来る訳でありますが・・・。
 片やヘリ。こいつは(墜落するとき以外、)途中で止まってくれません。誤解があるかも知れませんが、カーにしろヘリにしろ、搬送途中の機内で何か特別なことをする訳ではありません。と言うよりも、搬送途上の機内では何もできません。むしろ何もしないで済むよう、機内に搬入する前にすべきことは万全を期してやっておく、というのが鉄則なのです。とは言えそこは救急の現場。想定外のことが起こることも無きにしも非ずこそ侍りけれ。緊急事態が起きることもない訳ではありません。そんなとき、カーであれば最悪高速道路上であろうとも、「停めてんかー!」の一声で路肩に緊急停車、輪状甲状靭帯切開だろうが胸腔ドレナージだろうが、できないわけではありません。然るにヘリ。いかに澄み切った信州の青空と言えども、ヘリが腰かけてもよさそうな止まり木など、そうそう簡単には見つけることなどできません。ヘリは乗ったら最後、患者さんを無事病院に搬入できることを祈るのみ。逆に言うと、それだけ搬送前の現場における高度な判断と技術とがものを言う商売なのです。
 そのドクターヘリ、当院での年間出動件数は300〜400件。単純計算では日に一度、どこかの町の、どこかの村の上空を、暁に向かって(るとも限らないが)飛んでいることになりますが、事故・災害といった救急現場にはギャラリーという名の野次馬が集います。
 ヘリはただでさえ魅惑的な(珍しい)乗り物です。その上、その騒音で周囲にわざわざ飛来を広報致します。
 当然、ギャラリーという名の野次馬はさらに増え・・・。いつの日か、あなたの町のグランドへ、あなたの村の公民館へ、ドクターヘリが飛来するかも知れません。それは今日の午後かも知れないし、明日の朝かも知れません。そんなとき、皆様方の温かいご協力とご理解とをお願いしたい次第です。
 最後になりましたが、平時から出動、現場活動、そして帰還後に至るまで、その安全かつ円滑な運航に対し、多大なご尽力をいただいております中日本航空(株)のスタッフの皆様方および現場並びに関係各署の救急・消防本部の皆様方に対し、深い敬意と厚い感謝の意を表したいと思います。


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