BackBaseNext
 「ピロロロロ…ピロロロロ…(電話の音)」「はい、信州ドクターヘリ通信センターです」
 今日もCS室のホットラインが鳴り響き、ドクターヘリの要請がかがる。
 はじめまして。フライトナース1年目の看護師小野と申します。現在7名いるフライトナースとしては1番経験の浅い自分ですが、ICU(集中治療室)の仕事を日夜(3交代勤務にて)こなしながら月に4〜8回のフライトに就いています。フライトナースとして専任で仕事をしているわけではなく、通常はICUの看護師として患者さんの看護にあたり、当番の日だけ青いつなぎのフライトスーツに袖を通しているのです。
 ドクターヘリの運行時間は概ね午前8時〜午後5時30分。(日没まで。そのため冬季は午後4時30分頃には任務終了です。)その間、ICU内での雑務をこなしながら要請に備えて待機しているわけです。
 当番の日の朝は、いつもより少し早めに出勤しフライトスーツに着替えます。スーツのポケットにハサミやコッヘル、駆血帯、ペンライト、ボールペン、聴診器…小道具をいろいろ隠し持ちます。そして専用の靴(登山靴)に履き替え、ロッカーを出ます。ヘリ専用の薬品を持ち、CS室のPHS(ドクターヘリエンジンスタートがかがる電話)、携帯電話、デジカメなどをさらにまとい、ヘリポートへ。1日フライトスーツを着ているだけで肩がこリ、足が疲れます。
 ヘリポートではすでに運航準備を進めている機長さんや整備士さんに出迎えられ、冗談を交わしながらの挨拶とお互いの気持ち、調子を確かめ合います。チェックリストに沿い、ヘリ内の物品定数、さまざまな機器の作動確認、無線機のチェックを行い、最後に機長さんから安全運行に関しての注意点や気象状況を聞き、「1日よろしくお願いします。」とヘリポートを後にしICUの業務に就きます。
 「ドクターヘリエンジンスタート!」PHSが鳴ると、一気に緊張が走ります。出勤は1日0件から多いときで5件。月平均30〜40件程度。長野県全域をカバーし、南信への出動があれば2〜3時間は帰還できません。毎回同じ症例や疾患、外傷ではありませんがら初期情報を基に前もって予測をし治療の準備をすることが大切です。ナースは1人。ICUのように処置や記録を手伝ってくれる先輩や後輩もいません。すべて自分で行わなければなりません。最近ではようやく救急車の中での活動にも慣れてきました。
 一日が終わってようやく安堵の気持ちになります。やはり、それだけへリ当番の日は緊張しているんだと思います。
 自分は学生の頃から、救急医療の道に就きたいと思っていました。佐久総合病院に就職し、初めに就いた先は精神科でした。救急の場とは懸け離れていた現実に、当初は困惑しました。そんな想いを温め続ける中、精神科では4年間精神科看護について学ぶことができ、このことは今の自分にとってもこれからの自分にとっても、大きな糧となっています。そしてそこで多くの先輩方、そしてや患者さんからもたくさんの知識や経験をえて、社会人として看護師として考えさせられ、今の自分があるように思えます。
 そして念願がなってのICUへの異動。誰しもが新基地で思うようになるはずがありません。白々緊張の場面。精神科からICUへの異動という医療内容においても、看護内容においても、全く異なる別世界。現実を逃避したいと思う日々が続きました。救急や集中治療の場には向かないんじゃないか?そう思う日もありました。けど人は、「習うより慣れろ」ですね。先輩や同僚に怒られたり、励まされたり、そんなことを繰り返しているうちに、ICUでは5年が経ちました。自分がここまでやってこれたのは本当に良い仲間に恵まれているからだと思います。
 ドクターヘリ事業が当院で開始されたとき、自分はまだICU2年目という経験が浅い時期でした。到底高嶺の花のような存在で、その頃の自分には自信がありませんでした。フライトナースへの話が自分の元に来たときは、正直迷いもありました。自分にできるのが・・? けど、今やらずにいつやる? そう自分に問いかけた瞬間、決断しました。
 華やかそうなドクターヘリの活動の裏には、かなり地道なことの積み重ねがあり、そして多くの方の協力の元で成り立っています。それはドクターへリスタッフや運航会社の皆さんであったり、ICUのスタッフ、事務や施設課の方々、病院職員であったり、地域住民であったり救急隊のみなさんであったり、さまざまな方のご理解とご協力のもと運航できていることに感謝いたします。
 ヘリスタッフも消防の皆さんとの検証会や運営部会を行い事例検討を図り、フライトナースも月に数回の会議を持ち、学会に出す論文を作成したり、ヘリの物品について整理・検討したり、日々試行錯誤しながらより良い運航を目指しています。
 まだまだ自分自身にも課題は山ほどあり、スタッフの皆さんに迷惑をかけている身ではありますが、信州ドクターヘリが長野県の救急医療を支えている現実をより多くの方に周知してもらい、少しでも多くの命が救えるようスキルアップを図りたいと思います。
 そして、我こそは!というフライトナース志望の看護師の皆さん。まずはICUからの仕事にはなりますが一緒に働き、フライトスーツに袖を通しませんが?
 今後も信州ドクターヘリをよろしくお願いします。


BackNext