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 皆さんは「コード・ブルー」というドラマをご存知でしょうが。7月から放映されているドクターヘリを取り上げたドラマです。
(公式ホームページより抜粋(および少しだけ加筆))
 みなさんは「ドクターヘリ」という言葉をご存知でしょうか。日本では昨年6月に法制化された新たなる医療システムです。日本にはこれだけの医療機関がありながら、生命の危機に陥ったときに30分以内に専門医の治療を受けることができるのは、実は東京と大阪の2都府だけ(単純にそうでない気が…)といわれています。
 一方で、心肺停止に陥り、脳に酸素が供給されない時間が10分を超えると蘇生率は20%を下回ります。
 では、どんな対策が必要なのでしょうか。そのひとつの答えとして、今、世界各国で検討・実施され、日本でも2007年から本格的に始動したプラン、それが「ドクターヘリ」プロジェクトなのです。(佐久病院では2005年7月1日から)。初療室に匹敵する設備を搭載したヘリコプターで一刻も早く患者の元へ医療者を派遣し、現地で治療を開始する究極の医師デリバリーシステム。いわば、病院での「待ちの医療」から現場での「攻めの医療」への発想の転換です。まさに翼を持ったERとも呼ぶべきシステムが、この「ドクターヘリ」なのです。
 日本の医療環境は今、医師が患者におびえる「医療萎縮」の時代となっています。そんな時代にあえて重症患者の待つ前線に出かけていくドクターヘリは、この医療萎縮の時代に一石を投げかけるものになるのではないでしょうか。まさにその先駆けとして、2008年夏、このドクターヘリを題材に、そこで奮闘する若きフライトドクター候補生や指導医たちが、自分の人生と医師としての職務との狭間で揺れ動く姿を措きます。


 前置きが長くなりましたが、今年の4月からフライトドクターとして週1回程度ドクターヘリに乗らせていただいている関と言います。佐久病院で初期研修を2年終了後、後期研修医として救急救命センター所属となり、それに伴いドクターヘリにも関わるようになりました。医師として3年目、ドラマでいえばまさしくフライトドクター候補生と似たような立場です。フライトドクター候補生という肩書きはフィクションですが、コード・ブルーは綿密な取材を元に実際の症例などを参考にして現実に則した感じで作成されています。さすが製作費も半端ではないといったところでしょうか。
 ドラマを観ながら「そこで躊躇なく切断って言えちゃいますかあ」、「複数傷病者は辛いよなあ」、「診た患者さんが悪くなったら確かに落ち込む…」、「ブラジャーまでは付けないでしょ」、「開腹したことなくて開腹は…」などなど、いろいろと突っ込みを入れたり自分の経験と照らし合わせながら楽しんだりしています。
 ドラマが始まってがら、「ドクターヘリってやっぱりかっこいいよねえ」、「ヘリに乗るのってどんな気持ち?」、「俺も乗ろうがな」とがいろいろな声が聞こえてきます。テレビの影響力の大きさを実感する今日この頃です。かっこいいのはあくまでも俳優と演出によるものという気もしますが、ドクターヘリに興味を持っていただけるのは悪いことではないのでしょう。乗りたいという希望も大歓迎ですけ!?
 佐久病院では新しくフライトドクターになるとき、大抵1カ月間・週1日程度OJT(On the Job Training)といって他のフライトドクターと一緒にドクターヘリに乗り込んで現場に行きます。その中で実際に治療の現場を経験し、実践が研修になるのです。そしてOJTが終了すると1人でドクターヘリに乗ることになります。私の場合にはOJTの時になぜがヘリ要請がほとんどなく(0JTでは飛ばないというジンクスがあるみたいですが)、ただ1回他のドクターと一緒に乗っただけで、2回目からはドクターとしては1人で乗ることになってしまいました。そんな状況ですがら初1人フライトのときの不安と緊張はかなりのものでした。
 そんな内面を出さないようにポーカーフェイスに努めながら、的確かつ迅速に診断と治療を!というプレッシャーが襲いかかるのに耐えて患者さんに向かわなければなりませんでした。ドラマと同じで優秀かつ新米フライトドクターにも優しい(こちらはドラマと違いますが)フライトナースを始め、操縦士、整備士の方々に助けられながら何とかやってきました。一人立ちしてから数カ月経ち少し慣れてはきましたが、まだまだ未熟で日々研鑽を積んでいます。
 「ドクターヘリ、それは贅沢な医療」。最近よく思うことです。操縦士、整備士、CS、看護師、医師を一名ずつ何かあったときのために待機させ、要請のときは数分以内にヘリコプターが現場に向かいます。医師・看護師不足が叫ばれる昨今、人員確保も簡単ではありません。「贅沢な」医療を提供するのも決して楽ではないのです。 これを読んでお気づきかと思いますが、まだまだ未熟な私がヘリに乗らせてもらっているのも、院内の人手不足からというのも否めないところです。また、ヘリコプターを飛ばすお金もばかになりません。今の制度では、政府と県から補助金を受けて病院がドクターヘリを運営していますが、多く飛べば飛ぶほど赤字になるという制度になっているそうです。
 一方海外に目を向けてみると、先進医療機関までアクセスするのに数日かかるのが当たり前の地域や、数円のワクチンが接種できなくて命を落とす子がたくさんいるような地域が少なくありません。そのようなところでは、まずは病院にかがるところからであって、ヘリコプターで受診など想像もつかないかもしれません。提供される医療は、社会の豊かさや考え方等で決まってきますが、世界の中の格差は如何ともし難いところがあります。
 皆さんは、コ−ド・ブルーという言葉の意味をご存知でしょうか。患者の様態が急変した際に使用される救命救急センターでの隠語で、緊急事態発生を意味します。ドクターヘリの未来が明るいのか、詳しいところは私のようなペーペーには分かりません。ただ、緊急に治療が必要な人に迅速に医療を提供できる、そういう意味ではドクターヘリは救急の進化した形であり素晴らしいものなのでしょう。ドクターヘリの運航が「コード・ブルー」にならないことを願うばかりです。
 ドクターヘリが日本に贅沢すぎるのかは分かりませんが、日本という社会がドクターヘリに限らず医療に対して、成果ばかりを求めるのではなくそれに見合った資源も投入する社会であってほしいと思います。そんなことに想いを馳せつつ、個人的には目の前の患者さんに向き合いながら、日々研鑽を積んで自分自身の知識を蓄え技量を磨き、少しでも多くの人の役に立てるようにがんばる日々が続いていくのでした。
 締め切りが間に合わず、出張福岡往きの機内で…


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